5,555RTありがとう!VitaminシリーズスペシャルSS公開!

5,555RTありがとう! VitaminシリーズスペシャルSS公開!

D3Pオトメ部Twitterキャンペーン 5,555RT達成の景品として、
書き下ろし『Vitaminシリーズ ウェディング!? ハーレムSS(ショートストーリー)』を公開!
キャンペーンにご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

※本ページはスマートフォンで読みやすいように設計されております。 お手数をおかけしますが、PCでの閲覧はブラウザのサイズを読みやすいサイズに調整してお楽しみください。

VitaminX

「はあ……」
南悠里は、放課後の中庭で今日何度目かのため息をついた。ため息の理由は、右手に握られた封筒。中には写真と釣り書きが入っている。
「どうしよう、とうとう明日になっちゃった……」
これが悠里に手渡されたのは1週間前のこと。遠縁のおばさんが突然、悠里を訪ねて来たのだ。ほんの数回法事などで顔を合わせたことのあるその人は、有名なお見合いおばさんらしい。
「あなたまだ独身なんですって!?いいお話があるのよ~!」
「え!?あ、あの……」
「この封筒にお相手の写真と釣り書きが入ってるから!」
「いや、その、私はまだ結婚なんて――」
「みーんな最初はそう言うのよ!でもこういうことは結婚したくなってから始めたって遅いんですからね」
そんな風に言いくるめられ、結局断る隙もないうちにおばさんはさっさと退散してしまい――お見合い日はもう、明日に迫っている。
「さすがに前日に断るなんて、失礼よね。はあ、どうしよう」
その時、バカサイユに向かうため、中庭を歩いていた風門寺悟郎が、悠里の姿を見つけた。
「あれ? あそこにいるのって……センセだよね」
ふとあることを思いついた悟郎は、ゆっくりと悠里の背後にまわった。
「ふふふ、こーっそり近づいて脅かしちゃおうっと」
ところが次の瞬間、悠里の言葉を聞いて悟郎はピタリと動きを止めた。
「そもそもお見合いってどんな服で行くのかしら。明日じゃもう買いに行くのも間に合わないし……」
「お見合い!?」
悠里は封筒から写真らしきものを取り出している。悠里と同じ年頃の男性の写真だった。
(センセがお見合いしちゃう!?た、大変っ!!)
悟郎はそのままクルリと方向転換すると、バカサイユに向かって一気に走り出した。

「What? 今なんと言った?」
「だからー、センセがお見合いするんだよっ!」
「おいおい、マジなのか、それ?」
真壁翼と草薙一が悟郎を取り囲む。七瀬瞬はベースを弾いていた手を止め、地べたに座っていた仙道清春も立ち上がる。ソファーで転寝していた斑目瑞希もうっすらと目を開けた。
「もう、明日がお見合いの日だって言ってた。ゴロちゃん、センセがお見合いしちゃうなんてヤダヤダー」
「別に見合いをしたからと言って必ず結婚しなければならないわけではないだろう」
平静を装うように、瞬が再びベースの弦を鳴らしながら言う。
「はァ? ナナちゃん、バカじゃねーのォ。見合いっつーのは結婚する気があるからするモンだろ」
「バカとはなんだ、仙道貴様!」
とびかかって来ようとする瞬を、清春がひらりとよけて笑う。
「えっ!?じゃあ、やっぱりセンセ結婚しちゃうの? そんなのぜーったい嫌だからねっ!」
「永田!」
「はい、翼様」
「担任の見合い話が本当かどうか、すぐに調べろ。もし本当だった場合は――」
「どうするつもりだ、真壁?」
 瞬の問いかけに、翼は強い口調で返した。
「断固阻止するに決まっているだろう!」
「だよな~。俺だって、先生が知らない奴と結婚なんて嫌だし」
「……ダメ、絶対」
「だよな~、オモチャの分際で、オレ様の許可なく勝手なことすんじゃねェっつの」
一、瑞希、清春も同意の声をあげた。

永田の調査結果は、その日のうちにB6に伝えられた。
「では、担任は半ば強引に見合いをさせられそうになっているということか?」
翼の追及に、永田が頷く。
「はい。そのようで御座います」
「そういえば、中庭で見たときもセンセ、ため息ついたりしてたかも!」
悟郎が身を乗り出した。
「先生が乗り気でないなら、当然止めるべきだろうな」
瞬の言葉に、一も頷いた。
「そりゃそうだろ。だいたい、見合い話を断れなかったんだから、結婚も押し切られて強引に、なんてことも考えられるし」
「僕も……先生を止めに行く」
瑞希は何故かトゲーに向かってつぶやく。
「よし! では担任の見合いを全員で阻止するぞ」
「おーっ!!」
彼らは早速、作戦会議を始めた。

その翌日。
悠里は朝から憂鬱な気持ちで準備していた。
「ああ、やっぱり早めに断っておくべきだったなあ」
とは言え、当日ドタキャンするわけにもいかない。いつもよりも重く感じるマンションのドアを開ける。
「……あれ?」
マンションを出ると、道端に見慣れないものが目に入った。
(……あなたのお悩み解決します? 占い師……?)
繁華街などでは時々こうして小さな机に占い師が待機していることはあるけれど、こんな住宅地では珍しい。
(なんだろう……しかも、ふたりもいるし)
ひとりは背の高い男性、もうひとりは女性のようだった。どちらも深くベールをかぶっていて、顔はよく見えない。
目の前を通り過ぎようとしたとき、女性の方が声をかけてきた。
「そこのお嬢さん。今日はポペ……とても危険な日です」
「えっ!?」
「出かけるのはやめた方がいいでしょう」
すると、隣の男性も続けて話し出した。
「……今貴女が向かっている方向が……ダメ。大変な、ことが起こる」
悠里はもう一度、まじまじと占い師ふたりを見た。
(――どう考えても怪しいわよね……。うん、無視しよう)
「あの、急ぎますので!」
悠里は、その場を駆け出した。
「あっ! 待ってよ!」
「…………」
悠里が去った後、残された二人の占い師はベールを取った。
「……風門寺、全然だめ」
「うーん、おかしいなあ。カンペキな計画だと思ったんだけど」
ふたりの様子を監視していた翼、一が物陰から現れた。
「まったく、お前がPerfectな計画だと言うから、最初に挑戦させてやったというのに……」
「まあまあ、次は瞬と清春が待機してくれてるはずだから、そっち行ってみようぜ」
「今度こそ、大丈夫なんだろうな」
占い師を振り切るため、駅の方まで走ってきた悠里は、公園の前で足を止めた。
軽快な音楽が聴こえてくる。音のする方を見ると、思わずぎょっとしてしまった。
(演奏はすごくうまいのに……! 何、あの怪しい団体)
バンドの演奏のようだったが、全員、足元から頭まですっぽりと黒い布のようなもので覆われており、どう見ても普通のバンドマンには見えない。
(なんだか今日はやたら変な人たちに遭遇するなあ……)
音楽は聴いていたかったが、どうにも怪しい気配が拭えず、悠里はその場を立ち去ろうとした。その時。
突然、服の胸元の辺りに違和感を感じた。
「つ、冷たいっ!」
「キシシッ! だいせいこ~う!」
悠里に向かって大きな水鉄砲を構えていたのは、清春だった。
「き、清春くん!?」
突然の教え子の登場に驚いていると、先ほどの黒ずくめのバンドのひとりが近づいてきた。
「仙道! なぜ貴様は変装していないんだ! 衣装は渡しただろうが!」
「あんなだっせェもん着られるかっつの! だいたいナナちゃん、音楽で足止めできるとか言って、全然できてねェし? 大失敗ダロ。クククッ」
「しゅ、瞬くんまで……?」
目の前でいつものように喧嘩を始めたふたりを呆然と見ていると、ベールを外した先ほどの占い師たちも近づいてきた。
「……さっきの占い師、瑞希くんと悟郎くんだったの……?」
「ひどいよ、センセー! 無視して行っちゃうんだもん」
「……足止め、できなかった」
「っていうか、清春で先生の足が止まったんだから、最初から変な小細工する必要なかったんじゃないのか?」
「くっ……徹夜で考え出した作戦だと言うのに!!」
あきれ顔の一と、悔しがる翼。なんとなく状況がよめてしまった。
「た、担任!?何を笑っているんだ!」
「みんな、私がお見合いするって知って……止めに来てくれたんでしょう?」
全員、大きく頷いた。

「当然だ! この俺の許可なく結婚など、絶対に許さんぞ。……お前には俺がいる。焦らずとも、いずれお前は最高のPartnerを得ることができる。だから、見合いになど行くな。お前はいつも俺の隣にいればいい」

「先生が見合いするって言うから、すげーびびった。俺が気持ちを伝える前に手の届かないところに行っちまったらどうしようって。俺、先生が好きなんだ。この先、年をとってもずーっとずっと先生と刺激的な人生を歩いていきたい」

「先生……真っ暗闇だったオレの世界に光を与えてくれたのは貴女だ。貴女を失えば、またオレの世界は闇に染まってしまう。見合いなどしないでくれ。オレに幸せをくれた貴女を、今度はオレが幸せにしたい……愛してるんだ」

「オモチャのくせに、勝手な真似してんじゃねェっつの。オマエはオレ様のモンだって何度言ったらわかんだ? いい加減、温厚なオレ様もキレちまうかもよォ? オマエはずーっとオレ様の隣にいりゃいいんだよ!」

「センセ、お見合いなんかしちゃヤダー。ずっとずっと、一緒にいて。センセが隣にいてくれたら、ゴロちゃんどんなことでも頑張れるから……! 大大大だーい好きだよ、センセ」

「結婚なんてしないで……ずっと僕の側にいて。先生が側にいてくれれば、僕はがんばれる……。大好きだよ、先生。先生が繋いでくれた手を、ずっと離したくない。このままずーっと一緒がいい」

(私を止めるため、みんな必死になって考えてくれたんだ……)
悠里は覚悟を決め、お見合いをきっぱりと断るべく、携帯電話を取り出した。

<END>


トップページVitaminXのSSVitaminZのSSVitaminRのSS

VitaminZ

「これは、一体どういうことだ!?」
聖帝学園高等部の生徒会室に、生徒会長である方丈慧の声が響き渡った。
「まあまあ、兄さん。ちょっと落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!」
慧は机の上に山積みにされたチラシをどん、と叩いた。
那智は、慧が問題にしているチラシを1枚取り上げた。そこには、『成宮財閥主催、織姫&彦星カップルコンテスト』と大きく書かれている。
「これ、成っちょのとこのでしょ? 色々面白いこと考えるよね~。それにしても、さすがにこれは、ね」
そう言うと、那智はチラシを目線の高さまで持ち上げて朗読し始めた。
「今回のカップルコンテストでは、彦星役を大募集! 我こそは彦星と思われる男性はふるってご応募ください。織姫役は、北森真奈美先生です。――せんせいってば、こんなのに参加しちゃっていいのかな~?」
「まったくだ! 聖帝学園高等部の教師でありながら、このような訳の分からない行事の織姫役など……教師が率先して校内の風紀を乱す真似をして、どうする!」
「うんうん、だよね~。だいたい、おれ、こんな話初耳だし。おれに無断で織姫役にエントリーなんて……わかってんのかな、アイツ」
後半部分は、声が低かったためか慧の耳には届かなかったようだ。慧は椅子から勢いよく立ちあがった。
「よし、那智! これから先生の所に行くぞ」
「もちろんいいけど、どうするつもり?」
「こんな役は即刻降りてもらう」
「なるほど~。ねえ、それって校内の風紀を乱さないため、なんだよね?」
「と、当然だろう! 他に何がある」
顔を真っ赤にして言う慧の心中など、那智にはお見通しだった。
「うんうん、わかった! じゃあおれも行くから、一緒にせんせい、説得しようね?」
ふたりは揃って職員室へと向かった。

その頃、アホサイユでは、成宮天十郎、不破千聖、多智花八雲、嶺アラタがめずらしく真剣に顔を突き合わせていた。
「ねえねえ、天ちゃん。これってマジマジドマジな話~?」
最初に天十郎に詰め寄ったのはアラタだった。
「ぼくも気になってるピョン! センセーが織姫さまってどういうことナリ?」
 続いて八雲が可愛らしく小首を傾げながら聞く。4人が囲むテーブルの上にも、先ほど生徒会にあったものと同じチラシが置かれてあった。
「俺様だって今日初めて知ったんでぇ! 成宮財閥の企画だから、多分とーちゃんが関わってんだろうけどな」
天十郎の言葉を、腕を組んで頷きながら千聖が継いだ。
「十兵衛様は時々突拍子もないことをなさる方だからな……。しかし、織姫とは……」
「確かにキュートなティンカーちゃんにはピッタリな役だと思うけどね。でも、これってちょちょっとヤバいんじゃないの?」
「そうだよー! これってさ、要するにこのコンテストで彦星に選ばれた人が、センセーとカップルになっちゃうってことじゃないの?」
「カップル、だと……?」
「カップルってことは、センセーその彦星の人と……!」
「チューとかしちゃったりなんかして?」
「ななななな、ちゅ、チューだああああ!?」
「…………!」
アラタの言葉に、天十郎は真っ赤になって頭を抱え、千聖は絶句した。
「わーん、センセーが誰かとチューするなんて絶対ヤダ!」
「そうそう、A・U・O、あの甘い唇を奪うのはオレの役目でしょ」
その時、騒然とするアホサイユ内に、扉を開け放つ大きな音が響いた。
「貴様ら、何を騒いでいる!」
靴音を鳴らしながら入って来たのは、方丈慧、那智兄弟だ。
「おいおい、勝手に入ってくんじゃねえよ!」
天十郎の指摘に、慧がフン、と鼻を鳴らした。
「僕はきちんとノックしたぞ。それに気づかないほど騒いでいたのは貴様らだろう!」
至近距離でにらみ合うふたりを、那智とアラタがなだめる。
「まあまあ、兄さん。それよりもほら、話があるんでしょ?」
「天ちゃんも落ち着いて」
「で? 話とはなんだ、方丈」
「ああ。……先生が見当たらないんだ。だから、またお前たちが面倒をかけているのではないかと思ってここまで探しに来た」
「また、とかひどいナリ~。ぼくたちセンセーに面倒とかかけてないもんね~」
慧は、鋭い視線で八雲を見据えた。
「かけているだろう! そこのチラシの件もそうだ。成宮、今後一切校内で風紀を乱すようなチラシを配るな」
「はあ!?これは俺様が配ったんじぇねぇっつの。とーちゃんのところの漢字組が……」
「貴様のところの人間だろう! きちんと管理しておけ」
「なんだと~!」
言い合いを続ける天十郎と慧を尻目に、他のメンバーたちは話をすすめた。
「ねえねえ、花っちょ。この織姫彦星コンテストってほんとの話?」
「てんてんの会社がこうやってチラシまで作ってるんだから、多分ね。でも、センセーが織姫なんて、応募が殺到しちゃいます~」
「なるほど……ここはやっぱりおれたちが何とかしないとね」
「そうだな。このままでは先生がどこの馬の骨とも知れん男の餌食に……」
「いや、ちぃちゃん。餌食ってのは少し言い過ぎなんじゃ」
「とにかく、阻止する方法を考えないと!」
「多智花、お前今コンテストを阻止すると言ったか?」
天十郎との争いを中断し、慧が八雲に問いかけた。
「うん、言ったよ~。だって、センセーが誰かとカップルになるなんて嫌だピョン」
「ねえ、これってさ。阻止するよりももっといい方法があるんじゃない?」
「いい方法だと? どんな方法だ、那智」
「いっそ自分が彦星に立候補しちゃえばいいじゃないの? だってここにいるみんな、せんせいと他の男がカップルになるのが嫌なんでしょ?」
全員がピタリ、と動きを止めた。
「弟くんってば、簡単に言ってくれちゃうけど、立候補したって選ばれなきゃ意味ないんだよ?」
「そんなことわかってるよ。でも、こういうコンテストってだいたい相場は決まってるでしょ」
「なんだ!?何か秘策があるのか?」
天十郎が興味深げに那智に顔を寄せる。 「カップルになるんだから、せんせいにプロポーズして、せんせいが受け入れてくれた人が選ばれるのが順当だよね」
「なるほど。では、先生に求婚すればいいということだな」
「そういうこと。いっそコンテストが始まる前にそれができればいいんだけどね~」
その時、再びアホサイユのドアが開き、誰かが入ってくる足音がした。
「あれ? 慧くんに那智くんまでここにいたの」
まるでタイミングを計ったかのように入って来たのは、真奈美だった。
「先生!」
「センセー!」
口々に呼びながら、全員が真奈美の元に駆け寄っていく。
「ど、どうしたの、皆?」
「先生! これから俺様たちでコンテストやっから、彦星選んでくれよな!」
「え……?」
「センセーが他の人と織姫彦星カップルになっちゃうなんて嫌だからっ!」
「織姫彦星カップルって、まさか……」
突然の展開に困惑する真奈美をよそに、突如A4P2によるプロポーズコンテストが幕を開けた。
「他の彦星なんてぜってー選ばせねえ! まずは俺様から、行くぜっ!」

「俺様の未来のヨメは、おめぇしかいねえ! 俺様が絶対幸せにしてやるから、ヨメに来やがれ。おめぇが俺様を支えてくれたように、これからはずっとこの天十郎様がおめぇを支えてやる」

「お前は俺にとってなにもかも初めての女だ。こんな風にまっすぐ俺を見てくれたのも、そばに寄り添ってくれたことも……。こんなに誰かを好きになったのもはじめてなんだ。先生、まっこと愛しちゅう。結婚してくれ」

「センセー、大好きだよ。センセーがさみしい時はいつでもギュギューっていっぱいハグしてあげる。ぼくはね、センセーが一緒にいてくれるだけでいつもハッピーだから。これからもずーっとぼくと一緒にいて」

「ティンカーちゃん、貴女を愛してるんだよ、オレ。本当はこんな風に言葉にするのがもったいないぐらいに。これからもずっと、貴女のそばにいさせて欲しい。それだけでオレは幸せだから」

「お前に出会って、僕は今まで知らなかった沢山のことを学んだ。すべてかけがえのないものばかりだ。先生、僕にはお前が必要だ。この僕の伴侶として――この先の長い人生を一緒に歩んでもらえないだろうか?」

「せんせいってばほんと、おれが見張ってないと何しでかすかわからないよね。ってことで、これからはずーっとおれがせんせいを縛ってあげる。婚姻関係って法律でね。もちろん、断ったりしないよね? ……逃げられるなんて思うなよ?」

それぞれのプロポーズが終わり、全員、一体誰が選ばれるのかと固唾を飲んで真奈美の反応を伺っている。
(どうしよう……い、言えない……)
聖帝学園で配られたチラシは、依頼を断る前に印刷されたものが誤って配布されていたのだが、既に真奈美は辞退していたのであった。真奈美はそれを告げるためにアホサイユまで足を運んだのだったが――彼らはすっかり本気にしてしまったらしい。
異様な緊張感の中、真奈美はただひたすら、この場をどう切り抜けるべきか考えていた。

<END>


トップページVitaminXのSSVitaminZのSSVitaminRのSS

VitaminR

「どれも可愛いなぁ」
西野優那は、ご機嫌な様子で雑誌を眺めていた。紙面には何着ものウェディングドレスが並んでいる。
「どういうのが似合うかな?」
ペラペラとページをめくりながら呟く優那の後ろ通りがかったのは、ジャン・フェリックス・ヴァローと灰羽カオルだ。
「あれ……先生だよね? ずいぶん機嫌がいいみたい」
「そうだね。何かを見ているようだけど……」
顔を見合わせた二人は、優那に気づかれないようそっと近づいて行く。
「あっ、これとか可愛いかも! ああでも、こっちも捨てがたい……」
そして、彼女が開いている雑誌を確認するなり、今度はすっとその場を離れた。
「カオリン、先生が見てた雑誌って……」
「うん。あれは間違いなく、ブライダル雑誌だった」
「じゃあ、Mademoiselleが選んでいたのはウェディングドレス……?」
「そうみたいだね。これはみんなに知らせたほうがいいかも!」
いま見聞きしたものが信じられない、と言うように二人は足早にワルサイユへと向かった。

「ギルティ! あいつが結婚だと!?」
「藤重君、声が大きいよ」
ワルサイユに集まっていたW6の一人、藤重一真はジャンとカオルからの報告に声を荒げた。望月玲央、赤桐瑛太、朝比奈司の三人もそれぞれ手をとめ、身を乗り出している。
「だが、その話は本当なのか?」
「うん。先生は間違いなくゼクシ○を読んでた」
「ゼ○シィ!? うわーーって、ゼ○シィなんなんだ!?」
「朝比奈君は知らないかもね。結婚情報誌だよ。『プロポーズされたら』のCMでおなじみのやつ」
「ああーなんだと!? それじゃ、あのオンナはプロポーズされたってことか!?」
「ちょ、ちょっとみんな、落ち着いて」
ふう、と息をついたジャンはそのまま、ふかふかのソファに身を沈めた。隣に座るカオルも表情が固い。
「オレたちは直接聞いた訳じゃないけど、先生は確かにブライダル雑誌を眺めていた」
「『これも可愛い~、あれも捨てがたい~』って言いながら、すごく機嫌良さそうに見てたよ……」
「そんな……おいら、先生が結婚するなんて嫌だ!」
ファーストインパクトから立ち直った一真が二人の向かいに座り、優雅に足を組む。
「静かにしろ、朝比奈。まだあいつが結婚すると決まったわけではない。そうだろう?」
「確かにね。でも、あんなにうきうきした先生、久しぶりに見たよ」
「うきうき、だと……!」
玲央はチェロを弾いていた手をとめ、ぼそっと呟いた。
「そんなもん読んでたんだ。真偽はともかくとして、少なくとも先生には結婚する気があるんじゃないか?」
「そんな……先生、卒業してもぼくの傍にいてって言うつもりだったのに……」
「はぁ!? メガネ、テメェそんなこと考えてたのかよ! 聞いてねぇぞ!」
「別に赤桐君に言う必要なんてないでしょう? もしかして、ヤキモチ?」
ショックを隠しきれないでいるカオルに瑛太が噛みつく。静かに火花を散らし合う二人に、一真が「やめろ」と声をかけた。
「こうしていても仕方ない。こうなったらそれとなく本人から真相を探るしかないな」
「探るって、どうやって?」
「結婚する気かと聞く」
ジャンの質問に一真は真顔で答えた。
「藤重君、それぜんぜん『それとなく』じゃないよ……」
「おいらも直接聞くのに賛成だ!」
「……ま、ここでぐずぐずしてるよりマシだな」
「それはそうかもしれないけど」
ジャンの困惑を余所に、立ち上がった一真はふっと唇の端をつり上げた。
「良いことを思いついたぞ!」
「もったいぶってないでさっさと言えよ、カズマ!」
ふっふっふ、と含み笑いをしたあと、
「もしも本当に結婚すると言うなら、アイツに相応しい相手が誰なのか教えてやるまで。ただドレスに憧れているだけなら、この際だ。思う存分着せてやるまで!」
そう言って不気味な笑いをあげる一真を司が羨望のまなざしで見上げた。
「どういうことだ?」
「アイツが誰かを選ぶというならば、その候補に俺がいてもなんらおかしくはない、ククッ」
「藤重、シャベーな! なら先生が本当に結婚する前に、おいらも先生のお婿さんに立候補するぞ!」
「おいっ、あのオンナはオレのおもちゃだ。勝手に手ェ出すんじゃねェ! がるるるるるっ」
颯爽とワルサイユを後にする一真、それを追う司と瑛太。
「……そういうことみたいだぜ。オレも行くけど、おまえらどうする?」
「もちろん、ぼくも行くよ」
「行くに決まってるよね」
結局全員がワルサイユを飛び出し、優那の元へと向かったのだった。

「おい!」
「あ、一真くん……って、みんな揃って、どうしたの?」
突然やってきた教え子たちに驚きながらも、優那はにこやかに対応した。テーブルの片隅には、優那が読んでいたであろうブライダル雑誌がノートや教科書の上に積み重なっている。しかもその雑誌には、ところどころ付箋が貼ってあった。
「おいおい、マジかよ……」
「あれがゼ○シィ……!」
衝撃を受ける一同の様子を見て首を傾げる優那。
「……どうしたの? なんか様子が変だけど……」
「ん~、ちょっとね」
さりげなく玲央や瑛太を背に隠すように立ったジャンは、「そんなことよりも」と話を切り出した。
「何だか今日はずいぶんご機嫌みたいだね? Mademoiselle」
「え? そうかな。いつもと変わらないと思うけど」
「先生はいつも明るくて素敵だけど、今日は更にって意味だよ。なにかあったの?」
すかさずカオルが、ジャンの援護射撃をする。
「嬉しいこと? うーん、特に……あ、みんながこうして休憩時間も会いに来てくれたこととか!」
笑顔の優那にほだされそうになった一同は、ぐっと言葉に詰まる。しびれを切らした一真が、耐え切れずに叫んだ。
「……おい、貴様結婚するのか!?」
その声に、他の面々は固唾を呑んで優那の言葉を待った。
「えっと……結婚って……どこで聞いたの?」
「そんなことはどうでもいい! 今一度考え直せ!」
そう言うと、一真はおもむろに優那の手をとった。

「おまえが結婚したいと言うならしてもいい。だが俺以外の男を選ぶことは許さない。おまえをこの世界で一番幸せにしてやるのは俺だ。ドレスだって一流のデザイナーに作らせる。だから俺と結婚しろ」

「そうだぞ。どんな男だか知らないけど、絶対にオレを選んだ方が、アンタは幸せになれる。してみせる。それに、オレの方が若さと勢いと、才能もある。将来有望だろ? オレにしとけって。後悔させないから」

「ああ、Mademoiselle。本当ならちゃんと指輪を準備してから言うべきことだけど、今言わなきゃいけないと思って……。オレと一緒になってほしい。毎日おはようとおやすみのキスをして、甘く幸せな生活を送ろう」

「先生、結婚するなんて嘘だよね? 先生はぼくの内側に入り込んで、この心を奪っていったんだから、責任を持ってずーっと一緒にいてくれなくちゃ……。その代わり、ぼくは先生のために毎日歌ってあげるよ?」

「おいオンナ! 何勝手にケッコンなんて決めてんだ! だいたいテメェは一生オレのモンだろうが。くだらねーケッコンなんざ、さっさと破棄してこねェと、噛みついて離さねェぞ! がるるるっ!」

「おいら、先生に結婚されると困る! だって、先生にはおいらのお嫁さんになってもらうつもりだったから。なあ、おいらに先生の代わりはいないんだ。だから、どうにかして今の人は諦めて、おいらを選んでくれ!」

しばらくきょとんとしていた優那は、やがてくすくすと笑いだした。
「え? 先生、どうしたの?」
「ふふっ、嬉しくて」
 戸惑うワルロクの前で、ひとしきり笑ったあと、優那はテーブルに置いていたブライダル雑誌を手にとった。
「これのせいね。誤解させちゃってごめん。私は結婚なんてしないよ」
「……はああああ!?」
「じゃあどうして結婚情報誌なんて読んでたの?」
驚いて詰め寄ってくる一真たちに、優那は笑顔のまま頷いた。
「うん。これは、友達が結婚するから、そのお祝いの品を選ぶ参考にと思って読んでただけ」
「なんだよそれ~」
「まぎらわしいことしてんじゃねェよっ!」
「ちっ、早とちりかよ……クールじゃねぇことしちまったぜ」
優那は口々に文句を言う教え子たちの手をひとりずつとっていった。
「だいたい、今はみんなのこと以上に大切なものなんてないよ」
そのひと言と笑顔に、ひとまずW6メンバーは一様に安堵のため息を漏らしたのだった。

<END>


トップページVitaminXのSSVitaminZのSSVitaminRのSS