【菱山】
まず、今日は第一回ということで、Vitaminシリーズプロデューサーである、我らがD3P字原さんにインタビューをさせていただきたいと思います。いろいろと突っ込んだ話も期待していますので、昔話も思い起こしていただきましょう!
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~VitaminX立ち上げ裏話~
【菱山】
Vitaminシリーズが発売されて今年で6年目。長いシリーズになりましたが、一番最初の「VitaminX」の立ち上げについてお聞かせください。
PS2『VitaminX』 |
【字原】
実は今数えたら10作目なんですよ。私が乙女ゲームを担当した記念すべき10作目が「VitaminX」でした。当時、低価格で発売した『硝子の森』が好調だったこともあって、次は低価格じゃなくてフルプライスで出してみようかという話になったんです。そこで、『リプルのたまご』から私が乙女ゲームの担当をさせて頂きました。 でも、10作目ともなると、ジャンルや題材も頭を悩ませましたが、それ以上に「魅力ある攻略対象の男の子のキャラクター作り」がなんとなくワンパターンになりつつあったんですよ。どの作品でもキャラ属性はあったけど、当時人気があったキャラクターって王子様タイプで優しくて、成績優秀で、まわりからモテてて……と似通ってきてしまってたんですね。
【菱山】
当時の王子様キャラは王道でしたからね。
【字原】
あの頃は奇をてらった作品もいくつか発売していて、RPGをしながら恋愛していく「うるるんクエスト恋遊記」やホストクラブでNO1ホストと恋愛する「ラスト・エスコート」、カフェを経営しながらバイト君たちと恋愛する「きまぐれストロベリーカフェ」など、ジャンルもファンタジーや和風に挑んだりしてたんです。何作か他社さんにはないジャンルに挑戦し、ふと気が着くと自社作品で王道中の王道、学園物がほとんどないことに気がつきました。他社さんの作品では学園ものが色々発売されていて、競合も沢山あったから、今思うとなんとなく避けてきたジャンルだったのかもしれない・・・。だけど、ややり学園物という王道でも面白い作品をつくれないものか、と思い直したのが始まりでした。
【菱山】
そこからVitaminシリーズ歴史が動き始めるわけですね!
【字原】
それからは、現在のモテる傾向にある高校生男子はどんなキャラなのかを研究しまくりましたよ。リアル男子、2D男子、ドラマで人気の俳優さん、人気のアイドルグループなどなど!
【菱山】
何かヒントになるものはあったんですか?
【字原】
そうそう、当時たまたま観ていた『野ブタ。をプロデュース』というTVドラマの登場人物で、「彰」という人物の言葉遣いと、修二という人物のバラエティーに富んだおはようの挨拶がとても面白くて。この二人が"かっこかわいい"(かっこいい+かわいい)キャラクターに見えたんですよね。 演じていた俳優さんが、まぎれもなくかっこよかったのはもちろん、役柄とはいえ、普段言わなそうな台詞を言うのがとても魅力的に感じてしまって・・・。 それを観て思ったんです。ドラマの中の彼らは、見た目は申し分なくかっこいいけれど、語尾に「ぴょん」とか、挨拶で「バイセコー!」とか、見た目とのギャップが愛らしいのかもと、、、。 当時は、オイオイその言葉遣いなんだ!?って思ったけど(笑)。 優等生タイプではなく、かっこいいけど、なんかどこか変、勉強できないそのギャップ。それがかわいいと感じられる関係を描いたらどうかと思ったんだよね。
【菱山】
確かにパーフェクトではないですよね。
【字原】
そう、なにかしら欠点がある。でも、そういう部分が見た目とのギャップで、やっぱりかわいいなって、育てていきたいなって思う心理があって。母性本能というやつでしょうか・・? VitaminXはそんなことから「馬鹿かっこいい」をテーマに母性本能をくすぐるキャラクター達にいつしか仕上がっていったんです。
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【菱山】
なるほど。主人公の設定はどんなふうに決まっていったんでしょうか?
【字原】
最初、主人公も学生でクラスメイトという設定を考えたんだけど、それってすでにあるものばっかりだったんですよね。あと、彼らと同い年の主人公が突っ込みする、という設定に違和感があったので、それなら主人公は先生にして、彼らを育てる(教育する、ツッコミする)ということに違和感がないようにしようと。 プレイヤーは教師で、生徒がわからないことがあれば、叱ってあげたり、教えてあげるっていう自然な関係にしました。
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【菱山】
開発のヒューネックスさんとは最初、どんな風にお話したんですか?
【字原】
もともとD3Pの乙女コンテンツに3本柱を立てたかったんですね。「幕末恋華」「ラスト・エスコート」に継ぐあともう一本。私が岩崎さんに熱弁したら「そうですか、そしたら僕もがんばります」と前向きになってくれて。プロデューサーだけがテンション高くても、携わってくださる制作スタッフのテンションが低いとうまく回らないことが多いんですが、あのときは岩崎さんも私と同じテンションでいてくれて、上手くかみあっていた気がします。イラストレーターさんについても、正直、普通は開発会社さんと何度も相談して時間かをかけて決めるパターンが多かったんですが、確か岩崎さんが「この方でいきます!」と前田さんのイラストを持ってきたんです。
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【菱山】
急な展開ですが、そのイラストをご覧になったときはどう思われました?
【字原】
「ええ?男性のイラストレーターさんですか?」と率直に思いました。大抵乙女ゲームでは女性のイラストレーターさんを起用する場合が多いと思うんですよね。女性がかっこいいと思う男性像と、男性がかっこいいと思う男性像は違う場合もあると思うので、ごっついキャラになったらどうしようって思いました。
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【菱山】
確かに当時は女性のイラストレーターさんの方が特に多かったかもしれませんね。
【字原】
でも、過去の作品をみさせていただいたら「キャラクターがきれいな線と色で描かれていて素敵だわっ!」って。その時は、前田さんのHPにあまり男性キャラの作品がなかったので、女性を描いた作品を主に参考で見た記憶があります。このタッチで男子高校生を描いていただいたら、どんな感じになるんのだろう?と正直わくわくでした。
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【菱山】
その後はどうのように進行していったのでしょうか?Vitaminシリーズはキャラクターの制服もスタイリッシュで個性的ですが。
【字原】
その後は、キャラクターのラフ画が続々とあがってきたのをみて、学生服のデザインがもうかっこよすぎて、すばらしいな!って思いました。男性が描くから、男性から見てもかっこいいデザインの服装になっているんですよね、きっと。一の丈が短めのブレザーとか、普通の男子キャラだったら着こなすのが大変だなって思うデザインばかりで。でも、そこは前田さんの描くキャラクターが高尚だから、どのキャラもうまく着崩せているんだと感激でしたよ。 社内会議でイラストを提出した時に、かっこよくて上手いのはわかるけど乙女ゲームとして「受け入れられるの?」という突っ込みはありましたね。キャラクターデザイン、シナリオ、声優さんと、全てが上手くマッチしていれば受け入れられるという強い思いがあったので、発売後のお客様の反応にとてもドキドキしたのを覚えてます。
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【菱山】
最初に6人のキャラクターが上がってきたときに、字原さんの中でビビッときたキャラは誰でしたか?
【字原】
翼と一!「翼と一」はTVドラマの「修二と彰」ポジションでイメージしてましたからね。
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『VitaminX キャラクターCD
「DIAMOND DISC - 翼と一
(通常版)」』 -
【菱山】
じゃあゴロちゃんみたいなかなり違う角度のキャラクターはどんな感じで生まれたんですか?
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風門寺 悟郎(VitaminX)
【字原】
私の趣味で6人とも似たようなキャラクターばかりになっても良くないので、そこはもう岩崎さん含め開発のスタッフの皆でさんざん話し合ってもらい、キャラクター作りをしていただきました。ゴロちゃんだけは見た目も女の子にしか見えなかったから、岸尾さんも収録のときに「乙女ゲームなのに、このキャラクターほんとにこれでいいの?このキャラ人気でるの?」とツッコミ頂きましたね・・・(笑)。
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【菱山】
収録は大変だったと伺いました。私には想像ができません(笑)。ちなみに、キャスティングはどうやって決められたんですか?
【字原】
青二さんに入ってもらっていました。でも、どうしても吉野さんだけはアサインさせていただきたく・・直前で変更してしまったんですよね。
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【菱山】
ちょうど声優アワードで新人賞をとられたタイミングだったんでしたっけ?
【字原】
そう。岩崎さんからこれでというプランが来たんですけど、無理を言ってしまって。
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【菱山】
でも、それがなかったら今の清春は生まれてないかもしれないんですよね……そう思うとすごいです、先見の明ですね!
【字原】
そういえば、最初は生徒と先生のキャスティング候補が一部逆だったりもしたんですよ。岩崎さんや青二さんからのプッシュもあって今のメンバーになったんですよね。
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【菱山】
うーん、すごいです。Vitaminの歴史ですね…!
【字原】
そのVitaminっていうタイトルも最初は大変でした。「VitaminX」だとどんなゲームだかわからないし、恋愛っていうのも伝わりにくくて。絶対に社内から却下されると思って「これでいかがでしょうか?」という上長への報告のタイミングを毎日毎日見計らっていました(笑)。 もうセールシートやゲーム中のUIまわりを変更できないところまできて、このゲームは「VitaminX」です!って説明した覚えがあります。当時のVitaminXのブログで岩崎さんと私のやりとりを読んで思い出したのですが、当初の企画段階では『起立☆恋愛☆着席』と私がつけていたようです。タイトルのネーミングセンスはこの頃からイマイチだったね(笑) あと、岩崎さんにはどんなゲームかわかるようにVitmainXの後にサブタイトルつけたらどうか、英語でなく日本語にしたらどうかなど散々相談したのですが、結局サブタイトルではなく、ロゴまわりに「We are Super Supriment Boys」と入れることで落ち着いたんです。
~VitaminXを発売しての反響~
【菱山】
ではお話を伺ってきた企画やイラスト、キャストさんなどについて、実際に発売されての反響はどうでしたか?
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【字原】
実は発売してすぐはあまりヒットしたという印象はなかったんです。
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【菱山】
じゃあ、口コミとかレビューが良くて広がったんですか?
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【字原】
そうだと思う。ありがたいことに発売後のリピートのご発注を沢山いただいたタイトルでしたね。
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【菱山】
私も当時購入してプレイさせていただきましたが、新しいスタイルですごく楽しかったのを覚えています。つい人に勧めたくなる……みたいな。「キャラクターセレクト」や「ツッコミ&スルー」「究極の選択」だったりとか。プレイしやすくて感心してました。
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【字原】
私自身、ゲームがあまり得意じゃないから、とにかくあまり難易度を高くしたくなくて。誰でも入りやすいものを目指してたのもありましたね。とにかくエンディングまでは誰でも辿り着けるものにしたかった。時間を割いて頑張ってエンディングまでいったのにBADEND・・は悲しすぎるので、BADENDではなく「ノーマルエンド」を作ることにしました。
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【菱山】
あと、覚えているのが3月に発売されて、その後6月にもうイベントが開催されてましたよね。当時はまだ声優イベントって今ほどなかったからすごく驚きました。イベントも大盛況で大きな話題になっていたのを記憶してます。
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2007年6月24日開催イベント
『VitaminXいくぜっ!トキメキ★フルバースト』 -
【字原】
年間3本以上乙女ゲームを出すって言う社内目標がありました。それにあわせて、年に1回はいつも応援していただいているファンの皆様へ向けた、イベントを開催するっていう気持ちがあってですね。 VitaminXの第1回目のイベントは、何か今までとは違うことをしたかったんです。それで、キャストさんたちにはキャラクターをイメージした衣装やキャラカラーのアイテムを身に着けて頂けないでしょうか!とオファーしました。
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【菱山】
イベントと言えばキャラソンですが、あの伝説的な楽曲はどうやって生まれたんですか?
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【字原】
たしか・・・。当時、K-1、プロレス、ボクシング・・と格闘技観戦をしにいく機外が非常に多くありまして・・・。ときにはVitaminZのプロデューサー(大池)と蛍光灯デスマッチを観戦しにいって盛り上がったりと、社内の女子も格闘技好きが多かったんです。私もいつしか格闘家男性の魅力にとりつかれていた時期がありました(笑)。
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【菱山】
ジャーマンはそこからきたんですか? もしかして。
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【字原】
岩崎さんがもともとOP曲の候補で考えていたタイトルがいくつかって、その中に「放課後ジャーマンスープレックス」というのがありまして。私はそっち押しだったのですが、OP曲にしてはちょっとコアすぎやしないか。と説得され・・・。
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【菱山】
キャッチーではありますけどね(笑)。
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【字原】
「わかった字原さん、それはキャラソンかなんかで個別にやりましょうよ」みたいに説得されて、「じゃあわかりました」っていう。
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【菱山】
いや、すごいですよ。その説得がなかったら名曲が生まれてなかったかもしれませんから!
~その後のシリーズについて~
【菱山】
「VitaminX」発売後に産休に入られたわけですが、復帰していかがでしたか?
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【字原】
実は「VitaminZ」のことは全然知らなかったのでびっくりしました。私が担当したのは「VitaminX Evolution」までかな。途中で引き継いだけど。
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【菱山】
「VitaminZ Revolution」は字原さんが担当されたんですよね。そしてその後、「VitaminX Evolution Plus」から私が担当させていただくことになりました。
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【字原】
そう、企画の立ち上げはやらせてもらって菱山さんに引き継いだんだよね。
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【菱山】
はい! あと「VitaminR」も! 覚えてますか、2010年の2月くらいでしたよね。新しいVitaminを作るからっていっぱい打ち合わせしましたよね。
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【字原】
引き継いだね。私が不良って言ったのかしらね?
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【菱山】
はい、当時字原さんから、馬鹿、阿呆の次はワルがいい!って。
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【字原】
あはは(笑)。これは当時私が『ROOKIES(ルーキーズ)』に影響をうけて、市川隼人さんが演じる人物が非常にかっこいいなーっていうところからヒントに。
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【菱山】
やっぱりドラマがヒントだったんですね。
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【字原】
そう、ルーキーズ、かっこいいなって。
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【菱山】
だから最初の企画書は野球が題材だったんですか……。
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【字原】
そう、馬鹿、阿呆の次は、スポーツ×不良はどうかなと・・・。
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【菱山】
字原イズムを踏襲して企画を頑張ったんですが、野球だと人数が難しくて断念してしまいました。あと、ルールを知らないプレイヤーには厳しいかもと思いまして。
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【字原】
でも、「ワルい子達を更生させる」って言うコンセプトはそのままにしてVitaminらしさが出てるからすごくいいと思う。音楽と不良っていう関係になったのは菱山さんのアイデアでしたかね?
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【菱山】
いえ! 岩崎さんと話していて、最初は聖帝パリ校の話でどうかと練っていたら次のターンで音楽学校になっていました(笑)。確かに音楽(クラシック)はVitaminの歴史とは切り離せないものなのでシンパシーを感じましたし、新しい要素もいいと思いました。
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【字原】
メインテーマは「ワル」、「音楽」はエッセンスですね。
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【菱山】
ちなみに野球が消えて音楽になって、ぶっちゃけどう思いました?
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【字原】
あ、音楽って、やっぱりセンスがいいなーと思いましたね。
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【菱山】
ほんとですか!
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【字原】
今の時代は斬新さや尖ったもので攻めるより、どれだけ受け入れてもらえるかが重要なのでは?というテーマも抱えてたから。そう考えると、音楽って身近にあるものだしユーザーさんも入ってきやすいんじゃないかなって。きっと私だったら奇をてらったエッセンスを入れちゃってたと思う。
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【菱山】
それもすごい才能だと思いますけどね! ちなみに、今回の「W6」の中で字原さんが一番気になるのは?
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【字原】
やっぱりこの子が一番カッコイイ!
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【菱山】
おお、一真ですか。
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【字原】
私には同じ声優さんをキャスティングさせていただくっていうのが斬新だったね。
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【菱山】
そうですか?
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【字原】
全然アリだって思った!
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【菱山】
そう言って貰えてよかったです!
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【字原】
今回は、ユーザーさんからの次回作の期待を真摯にうけとめつつ、あっと驚くくらいの仕掛けがあったのかなって思う。半分期待にこたえて半分裏切るみたいな。 私は1作発売したら「全力投球、あー完成した!と力尽きちゃうタイプだから・・」なかなかテンポよく踏み切れなかったと思いますよ。本当に。 ファンの皆様からの応援があってこそ「Vitaminシリーズ」が成り立っていて、次の作品へ繋げていこうとしてくれた菱山さん・大池さん(VitaminY・Z担当)がいて。二人ともVitaminシリーズを心底愛してくれて。だからここまで続いてきたのかなって思う。
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【菱山】
貴重なお言葉をありがとうございます! じゃあ最後に、シリーズを通して応援してくれているファンの方々にメッセージをお願いいたします。
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【字原】
ここまで続いてくれて本当にうれしく思っています。そしてついに最新作ですね。 「VitaminR」はゴージャスです。見た目だけじゃなく、音楽も聴き心地がいいですし、やっぱりクラシックはいいですよね。 私はまだプレイ途中ですが、エンディングまで辿り着いてしまうのがもったいないくらいキャラクターが魅力的!、前田さんが描かれるキャラクターはすごく洗練されていてどのキャラクターから攻略しようかとまよってしまうほど。 皆さんも楽しみにしていてだくさいね!
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【菱山】
本日は初期段階の話もお聞かせいただきありがとうございました。