【菱山】
第二回ではVitaminシリーズ立ち上げから関わってくださっている岩崎さん、前田さんにお話を聞いてみたいと思います! イケメンクリエイター二人に挟まれて汗が止まりませんでした! それはここだけの話。
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~Vitaminシリーズ立ち上げの時の話~
【菱山】
キャラクターデザインは最初から前田さんで決まっていたと聞きましたが、その経緯は?
【岩崎】
VitaminはD3さんからのオファーで企画がスタートしました。学園モノで教師が主人公という設定ですね。 設定の新しさというのもあって、イラストもやっぱり今までにない新しいものにしたいと思いました。作家さんの候補は他にもいたんですが、前田に直接会って話したときに「男性をカッコよく描きたい」という目指しているものが一緒だったんですよね。スタイリッシュなプランにインスピレーションを受けたというか。
【菱山】
それより前に一緒にお仕事をされていたんですか?
【岩崎・前田】
いや、Xからですね。
【菱山】
初めての乙女ゲーム…というのはどうでしたか?
【前田】
僕は当時、3Dモデルのデザイナーだったんです。某メーカーさんで、そういったデザインやディレクションをしたりしていて。フリーだったのでたまにイラストのお仕事もしていたんですが、こういったキャラクターイラストを描くことってほとんどなかったんですよ。
【前田】
それが、突然岩崎からメールが来て、なんとなく会社のホームページを見にいったらギャルゲーをいっぱい作ってる会社みたいで、ちょっとびっくりしました。でも会って話を聞くと、今までにはないものを作りたい、という熱意をすごく感じて、僕自身も面白いと感じたので割とすぐに「やります」とお返事した記憶があります。ちょうどその頃、ゲームの原画などを描く仕事にチャンレジしてみたいと思っていたのも大きかったですね。
【菱山】
結構ボリュームのあるお仕事だと思うのですが、そのあたりはどうでしたか?
【前田】
実はお仕事を引き受けるときは、あまりそこまで計算してなかったんですよ。どれだけ大変かも分かってなかったのかも(笑)。 その頃3Dデザインがメインの仕事だったこともあって、三面図ばかりで。キャラクターがポーズをとるような、漫画やアニメみたいなイラストを描くことがなかったんですよね。なので、動きのある絵を描くということへの新鮮さや、チャレンジ意識が強かったんだと思います。今思えば、ここがまさにターニングポイントでしたね。
【菱山】
本当ですね! 岩崎さんはデザイナーとしての前田さんのイラストを見て、直感が働いた……ということなんですか?
【岩崎】
そうですね、とにかく新しいものを! イラストだけじゃなく、全てにおいて新しさを目指したんです。ロゴやタイトル、音楽だけじゃなくて、システム面でも最初からキャラを選んで進めるとか。いろんな工夫をすることに集中していましたね。
【菱山】
確かに、キャラクターセレクトは抜群に良かったですね。 全てを新しく、となるとプランニングにも相当時間がかかったのでしょうか?
【岩崎】
いや、プランニングというよりは新しいものを、という目標がしっかりしていたので、どちらかといえばキャラクター……主にキャラデザに時間をかけましたね。乙女ゲームというジャンルに対して、当時の王道とは違う絵というのをどうFIXさせていくか、というのに時間がかかったというか。
【前田】
そうですね、手探りな部分も結構ありました。お仕事の依頼を引き受けて、初めてこの業界(乙女ゲーム)について勉強しました。
【菱山】
ここにPS2「VitaminX」のチラシがあるんですが、驚いたことにみんなサングラスなんですよね。顔を隠してるっていうのが斬新過ぎるというか(笑)。
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【前田】
当時はまだこういった乙女ジャンルの絵がチャレンジだったんですよ。たぶんそれで目の描き方も研究中で、サングラスかけさせておこう、みたないなのもあったかもしれません(笑)。乙女ゲームの雑誌も買って見たりしていました。
【岩崎】
字原さんも気に入って、そのままサングラスありのイラストを押し出したんじゃなかったかな。当時は乙女ゲームというジャンル自体も今ほど大きくなかったので、インパクトも強かったと思いますよ。
【菱山】
確かに。「VitaminX」は、D3Pのフルプライス女性向けタイトルとしてはちょうど10作目の作品だったんですよ。それまで成功も失敗もあった中で、目新しい「VitaminX」はイラストが斬新過ぎて不安だった、という話が字原(初代プロデューサー)からありましたよ。でも岩崎さんを信じた結果、今があるんだって。(※第一回参照。)
【岩崎】
タイトルが「VitaminX」になってよかったです。
【菱山】
ああ、そういえばタイトル決定も大変だったと聞きました。
【岩崎】
あやうく『起立☆恋愛☆着席』になるところでしたから(笑)。 字原さんからは「VitaminX」だけだとどんなゲームか分からないから、タイトルに付け加えてくれって言われていて。他にもタイトル案で『絶対教育』とかがありましたが、絶対やめてほしいって言って(笑)。でも最終的には字原さんが上手くまとめてくれて「VitaminX」になったんですよ。
【菱山】
「VitaminX」というタイトルにしたきっかけはなんだったんですか?
【岩崎】
純粋に「サプリメント」「ビタミン」「男の子たち」「元気になる」で、エックスは「未知のもの」……それだけです。「未知のもの」から「お馬鹿」に転じるんですね。
【菱山】
発表された当時の印象はどうでしたか?
【岩崎】
発表よりも発売後の反響ですかね。キャラソンやイベント、ドラマCDとかのはっちゃけ具合が、当時目新しかったという部分でも功を奏したと思っています。B6のカオス具合がマッチしたんでしょうね。イベントも音楽も全てがいきなりアクセル全開みたいな(笑)。
【菱山】
そういった意味ではキャストのマッチングもすごいですよね。
【岩崎】
キャスティングについては、担当してくれていた青二さんから若手の鈴木さんをプッシュしていただいて。キャラクターにも見事にはまったし、すごく良かったと思っています。あと、実をいうと吉野さんは字原さんの鶴の一声で急に清春役になったんですが、初めての収録では自分達の予想をはるかに上回るキャラ作りをされてきて。ああ、なるべくしてなったんだな、と運命みたいなものを感じましたね。
【菱山】
そうですね、CDなども沢山発売されましたし、その頃にはかなり手ごたえを感じていましたか?
【岩崎】
でも……そんなに盛り上がってたかな?
【前田】
DS版(「VitaminX Evolution」)が発売されてから一気に空気が変わったよね。
【岩崎】
変わったゲームが出てる、という反応はなんとなくあったけど、ゲーム自体、すごく内容を作りこんでたんですよ。そして他の作品と比べてボリュームがある。とにかくシナリオが多いというのも大きな魅力としてユーザーに伝わっていったんじゃないかと思います。それは「VitaminZ」でも踏襲されて、やっぱりボリュームの多いシリーズになっていきましたね。
~VitaminZについて~
【菱山】
確かにプレイし応えは十分すぎるほどありますよね。「VitaminZ」はXの2年後に発売されましたが、いつ頃から構想されていたんですか?
【岩崎】
「VitaminX Evolution」が終わったあたりには、すでに企画がはしっていましたね。
【菱山】
阿呆というコンセプトはどんな風に決まったんですか?
【岩崎】
純粋にB6が馬鹿6人だったので、それに対抗するには阿呆でいこうと。A4で阿呆という括りにしたかったんです。なので4人が最初にできあがりました。また、学園モノという劇中で、キャラ同士のライバル関係を表現してみたくて、対極になるP2の2人を立たせました。あと、ペア同士でのシナリオを上手く押し出していきたいというのもありましたね。
【岩崎】
「VitaminX」は個人それぞれのお話に焦点を当ててたんですが、「VitaminZ」については、家族や友達との絆みたいなものを強く出して行きたかったんです。そういった意味では「VitaminX」からの成長というのがスタッフにもあって、たとえば理事長の最終試験とか、新しさを追求してましたね。
【菱山】
なるほど。キャラデザはどうでしたか?
【岩崎】
僕は天十郎に短パンを履かせるという野望を果たしました。
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成宮天十郎(VitaminZ)
【前田】
僕はずっといやだって言ってて。でも、どうしても岩崎がこだわりたいって言われて、片方をちょっとだけ長めにするということで妥協しました(笑)。
【菱山】
前田さんの描く衣装はかっこよくて、普通に作りたい、着てみたい!と思いますからね。そう考えると短パンはハードル高そうです(笑)。
【岩崎】
着られる服、というのをコンセプトにデザインしている部分もあるみたいですからね。
【前田】
「VitaminZ」のときは、デザインのこの部分(ボタン)をはずすとこうなる、とか、ここをとるとジャケットになるとか、そういう部分も考えてましたね。
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左から 不破千聖、嶺アラタ、方丈慧、方丈那智(VitaminZ)
【菱山】
舞台版の衣装制作でも、前田さんのデザインを忠実に再現しようと頑張ったんですが、八雲のふわっとしたボトムとか、難しかったんですよ。
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多智花八雲(VitaminZ)
【前田】
これは、ワイヤー入れるしかないかもですね(笑)。
【菱山】
そうなんですよ。でも自然なふんわりがどうしても欲しいなと思ってしまいました(笑)。やっぱり目のいくポイントというか、必要なものみたいな感じで。細かい部分もおしゃれなんだな、と思いました。
【前田】
デザインをするときに差別化を求めてしまう部分もあったりするんですよ。パッと見たときに、あれ、他と違うな、と思ってもらえるのが一番だし、それが自分の仕事だと思っていて。実際は多少の違和感を狙ってたりもしたんですが、結果、それをカッコイイと受け取ってもらえた……というのはありがたく思っています。
【岩崎】
「VitaminZ」の制服も、最初提案したときは白じゃなくて赤だったんだよね。
【前田】
そう、でも赤は色として強すぎて個性を壊してしまう可能性が高くて。全員が赤い衣装となると、赤に負けないようにってキャラクターの顔の描き方にもかなりの影響が出ていたでしょうね。制服の色だけじゃなくて、首から下の色を見ながら顔を描くことも多いですし。
【菱山】
では6人並べてからまた修正が入ることも結構多いんですか?
【前田】
それは最初からです。最初から6人並べた状態でデザインしています。全体だけじゃなくて、細かい髪の長さやボリューム、口の形とか、細かいバランスを見ながらの作業になるんですよ。僕の場合、ゲームをパッケージとしてみているので、1キャラ1キャラというよりは、それこそロゴもあわせた上での作品として作っていきたいんです。
【菱山】
ちなみに、一番苦労したキャラクターを聞いてもいいですか?
【前田】
そうですね……どのキャラも苦労はありますが、一番悩んだのは「VitaminZ」の清春ですね。このキャラがどう成長するのかも想像が難しいし、ファンの方からしてみたらどれが正解なのか、分からなかった部分もあります。でも、こうきたか! と驚かせたいという気持ちは強かったですね。
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仙道清春(VitaminZ)。アメリカのNBAで活躍するバスケットボールプレイヤー。
~VitaminRについて~
【菱山】
それでは、今度は「VitaminR」についてお話をお伺いします。最初にキャラクターデザインについてお伺いしても良いでしょうか。
【前田】
岩崎から「黒で」という要望があったときは、やっぱり一瞬戸惑いましたかね。さっきの話にも出ましたが、やっぱり強い色だから何をやっても黒になってしまう。だからさし色を入れるようにしました。ぱっと見た瞬間にヨーロッパぽい雰囲気を入れるっていうのも音楽との親和性が高いんじゃないかと考えて表現しました。
【菱山】
塗り方もすごく丁寧でいい雰囲気が出ていますよね。
【前田】
うまく言葉では表現できないのですが、もともとリアル寄りに絵を描いていたんですよ。線画という概念がなくて、まず色を置いてからその上に線画を作っていく……というやり方で絵を描いていたんです。このイラストなんかもそうですね。
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『VitaminX キャラクターCD
「DIAMOND DISC - 翼と一 - (アニメイト限定版)」』 【前田】
色で塗ってそれにあわせて線を描いて、その後からまた塗るという手順を踏んでいたんです。線だけで絵を表現する、というやり方が当時はできなかったんです。色を置いてみないと分からないというか……。 もちろん、今は線画から描くことはできますけど、今回は描き方、塗り方をちょっと昔のやり方に戻したんです。当時ああやって描いていたのを、7年経って今、またやってみたらどういうふうにできるのかなと。岩崎の意見も聞きながら仕上げていました。なので塗りこむ回数も多く、顔は特に大変でしたね。
【前田】
そういえば気づいた方もいるかもしれませんが、背景なんかも少し「VitaminX」のイメージをリンクさせてたりします。
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【菱山】
テストが散ってたりするのもうれしかったです。
【前田】
原点回帰っていうわけじゃないけど、意識した部分はありますね。
【岩崎】
楽器を持たせるということもあって、楽器も買ったもんね。バイオリンやチェロとか、スタッフに演奏するポーズとってもらったりして。やっぱりそういう部分でも嘘はつきたくないっていうか。
【前田】
フォームなんかは持つ人の体格とか、演奏の仕方によって変わるかもしれないけど、だいぶ勉強したよね。
【菱山】
今回、ロゴのフォントが明朝寄りなのって何か理由はあるんですか?
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【岩崎】
音楽というテーマがまず一番にありますね。企画書の段階からこの流れです。でもそれだけじゃなくて、X、ZとRは繋がっていないわけじゃないけど、新しいシリーズということで見せ方を変えてる、というのも大きいです。画面のデザインについても、時間をかけて作りましたね。今までのものと同じにはできないけど、でもレイアウトなんかはVitaminらしさを残しつつ、新作としてのデザインを見せていくのを課題にしていました。
【菱山】
「VitaminR」を作りましょう、という話になったときどう思われましたか?
【岩崎】
最初は新作を……というのに驚きましたが、Vitaminを愛してくれている人たちに対しての答えを出せるものを作り上げたい! というのが率直なところです。ここまでくるのに沢山の苦労もあったけど、本当に自分達にとっても愛ですね。X、Zに続くこの先5年愛してもらえるキャラクターを作ろう、というのを菱山さんと語りましたよね。そういった意味でも原点回帰じゃないけど、Vitaminらしさは満載、でもまったく同じものじゃなくて、ちゃんとRとして愛されるものを作ろう、と思いました。ディレクターの細谷も本当にVitaminシリーズを愛していて、自分の時間を削ってでもデバッグに費やしたり、本当にやりきってくれています。自分達だけで作ってないですからね、本当にスタッフに恵まれてるなと実感しました。
【菱山】
私は現場にいませんが、ゲームをプレイしていて、その丁寧さや細かい作りこみに感動しました。スタッフさんたちのこだわりや想いが本当に詰まっているな、と。岩崎さん、前田さん、細谷さんをはじめとする信頼できるスタッフさんたちと一緒にこの作品が作れて良かったと思いました。
【岩崎】
それはありがたい言葉ですけど、開発終了は終わりでないですよ。発売して、お客様にプレイしてもらうことが始まりですからね。
【菱山】
もちろんそうですね。プレイして純粋に面白いですし、なにより、Vitaminでした!! シリーズ通して愛してくださるユーザーの皆さんにも、同じ思いで共感いただけることを約束します! と、私が締めたらダメですね。では、最後に読んで下さっている皆様へのメッセージをお願いいたします。
【前田】
シリーズをプレイしてくれている皆さんには、今までの共通点を見つけてくれると嬉しいかなと思います。「VitaminX」と同じやり方で作っているので、新しい中にもちょっとした仕掛けがある、みたいな。それは今後もチャレンジしていきたいなと考えています。初めてVitaminシリーズを手に取られる方へは、そういったこれまでの経験や想いも実はあったんだ、というのが伝わればいいなと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。
【岩崎】
「VitaminX」を作ってきたオリジナルのメンバーで集まって作る、というのがコンセプトです。原点回帰と新しさの融合というのを意識して出来上がってきていると思うので、そこが一番遊んでもらいたいポイントになるんじゃないかなと思いますね。このメンバーで生み出す新しいストーリーです。Vitaminらしさ満点の内容に満足していただける作品に仕上がっていると思います。初めましての方はぜひ、これを機にXもZも見てもらえたら嬉しく思います。発売日は8月8日です、よろしくお願いいたします。
【菱山】
岩崎さん、前田さん、貴重なお話を聞かせてくださり、大変ありがとうございました。